佐久間と山田のけだるい日常 第七十六話 ~暴食~

「今日も元気だ、ご飯がンまい!」
およそ10人分ほどの食事を頬張りながら、佐久間闇子は元気に叫んだ。
飯粒が山田の顔へ飛び、山田の表情が曇る。いつもの光景である。
「お前の食ったものは、どこへ行くのかな・・・。」
「言ってなかったか? 私は肉体を55パーセントに圧縮してるんだ。解除すれば2メートル30くらいになる。」
「お前は“八尺様”か?」
「単に身長が伸びるのではなく、全体的に巨大化するという意味では、まあ似たようなものかな。あの女は全体的に巨大なんだろ?」
「ああ、まあ、よくは知らないけど。」
言いながら山田は、この前のことを思い出していた。
男になったときに2メートルを超えていたのは、男だからではなく、圧縮が解除されていたからだったのだ。
「それだけの肉体を維持するには、それなりの量を食わねばならんのだ。燃費は良いが、エネルギー消費の大きい肉体だからな。」
「それを燃費が悪いって言うんだよ。」
「どれだけ食ってもスレンダーなままで嬉しいだろう?」
「若干恐い。」
「それが乙女に言う言葉かっ!」
「乙女以前に、人間かどうかの判定が怪しいんだが・・・。」
「馬鹿者! 乙女とは人間か否かではない、心に宿るものだ!」
「じゃあ駄目じゃん・・・。」
「そうだな。厳密に言うと、私には心が無い。掛け値なしの虚無だ。こうして笑っていられるのも、山田のおかげだ。」
「何だ、急にシリアスだな。」
「違う。そのセリフは違うぞ。“佐久間は俺が育てた”って言うところだ。」
「お前みたいな娘は嫌だな・・・。」
「お父さん! お父ちゃん! 父さん! 父ちゃん! パパ! 親父! 父上! お父様! ・・・どれが良かった?」
「どうでもよかった。」
「私には父親というものが無いから、感覚がわからなくてな。」
「・・・・・・。」
またシリアスになるが、山田は疑念を抱く。
八武もそうだが、自分の過去を平気でネタにする、狂った神経を持っているのが佐久間闇子だ。
「山田のような父親がいたら、私は全力で近親相姦に走る覚悟があるよ。」
「やめてくれ。本気で。」
「何だ、山田は近親相姦は苦手か? まあ、私も得意ジャンルではないな。山田が他人で良かったと思う。」
「そうだな。お前の親戚とか、ゾッとする。」
「お兄ちゃん。お兄さん。兄ちゃん。兄さん。あんちゃん。お兄様。兄貴。にぃたま。・・・どれがいい?」
「そういうのはオワリン様にやってくれ。」
「だって兄貴は転生してないじゃん。」
「・・・・・・。」
今度は冗談でなく、人間離れした表情をするので、山田は戦慄した。
かくいう自分も前世の頃と同じく、様付けでオワリンを呼んでいるのだが・・・。
「血縁なんてね。大して重要じゃない。」
“佐久間闇子”ではなく、“ミクモウ”のような表情で、彼女は喋る。
「闇モンスターなんて、元を辿れば全て、ネイメイスの作り出した構造のバリエーションに過ぎない。それらが争い合い、食らい合い、あるいは結びついていくのを見て、ネイメイスは喜んでいた。おしなべて創造者というのは、そういうものだ。単純な自分から、どれだけ複雑で多様なものを生み出せるか。その具体性の数々を楽しむ、そういう存在。どれほどの苦痛も理不尽も、不条理も、創造者にとっては多様性を彩る要素のひとつでしかない。」
「・・・・・・。」
「はははっ、私は何を語ってるんだろうね。時々、たまに・・・自分の存在が疑わしくなるときがあるんだ。人間の肉体は、日々入れ替わり、摂取したものによって形作られている。維持されているのは連続性だけで、構成する物質は次々と刷新される。たらふく食って、たらふく消費する私は、入れ替わりも激しかろう。・・いや、そういうことじゃないな、これは・・・。人間はみんな、こんな思いを抱えて生きてるのか?」
「さあな・・・。他の人間の頭ン中は、覗いたことが無いからな。ただそれは、決して悪いことじゃねえよ。世界の広さを知らない奴には、崩れそうな不安も、心の儚さも無いんだからな。」
そう言いながら山田は、空になった茶碗に飯をよそった。
炊飯器は、もうすぐ空になる。




   第七十六話   了

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この記事へのコメント

2014年08月29日 21:17
火剣「近親相姦は苦手だな」
コング「僕も前は苦手だったが姉弟だけは認める」
ゴリーレッド「限定もどうかと思うが」
コング「弟に手足を縛られてしまった真っ裸の姉がきょうだいだから絶対にダメと泣きながら哀願しているのに弟がぐふふふ。興奮したということはOKということ」
ゴリーレッド「悲惨だ」
火剣「姉が本気で嫌がっているところが重要だな」
コング「その通り。アブノーマルは批判する前に認識することが大事だ」
ゴリーレッド「君が言うか」
火剣「大食漢といえば完練だ」
コング「完練も本当は190センチくらいなのか?」
ゴリーレッド「完練は普通の人間だ。解除とか圧縮とかもはや人間ではない」
火剣「心か。七瀬なら俺のことも理解できるのか。生まれてこのかた俺様を理解できた人間はいねえ。若い頃はよく熱く自分のビジョンを語ったりしてしまったが、ポカンとされることが常なので、そのうち本音を喋らなくなった。地で行ったらこの社会では生きていけないことがわかったからな」
コング「怪物の徒歩は高層ビルを破壊する」
火剣「人の頭ん中はわからねえもんだ」
ゴリーレッド「佐久間んには山田太郎殿がいるから良かった」

2014年08月29日 23:02
>火剣さん
思えば私も、すっかり斜に構える大人になってしまいました。厳密な意味で、人の気持ちを理解することは、テレパシストでも簡単ではないと思っています。
七瀬の本領は、テレパシーよりも、人間を理解しようとする努力にあるのかもしれません。

佐久間「年齢は私が年下だが、山田の方が弟のような感じだな。」
山田「確かにそうだが、この流れで言うあたりに底知れぬ悪意を感じる。」
佐久間「悪意ではない・・・愛情だ!」
山田「やめろ。」
八武「その気になれば、自由自在に変化できるんだよね? たまにはショートヘアのスレンダー少女とかに変身してみないか?」
佐久間「どこの栞かっ。」
維澄「誰の胸が絶壁だって?」
佐久間「それはさておき、私は山田がいて幸せ者だというのは論を待たない。」
山田「俺は不幸かもしれない。」
佐久間「理解できなくても、理解しようとする姿勢は相手に伝わるもんだ。むしろ、浅い理解で止まっている奴の方が煩わしい。」
神邪「わかります。浅い理解で済ましている人は、何かとケチをつけたがる・・・荒らしとか、その典型ですよね。」
維澄「思ったことをすぐに吐き出すのは、本音でもなんでもないからね。ただの衝動、俗情だ。本音というのは、熟慮の末にある。壮大なビジョンであったり、深い心情の吐露であったり・・・有機的で面白いものだ。」

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