亡霊たちへの鎮魂歌 60

「おにぎりでも、どうですか?」
しばらく睨み合っていたところへ、白石楷の母親が、皿に黒白のコントラストを載せてやって来た。
性的にそそられるものではないが、温かくて落ち着く笑顔だ。十島育生は母親のことを思い出して目頭を熱くした。
「いただきます。」
「?」
尊大な態度を取っていた男が、いきなりしおらしくなったので、宮白希揃は訝しい顔をした。
それに気付いて十島育生は、おにぎりを1つ食べ終わってから声の調子を変えて話し出した。
「思い出したよ。母親が、ヤーさんの抗争に巻き込まれて死んでんだってな。」
すっかり忘れていたが、そのことは白石楷から聞いていたのだ。
「・・・!」
宮白希揃の表情が険しくなる。
しかし次の言葉を聞いて、それは驚きに変わった。
「オレも似たようなもんだ。」
「えっ・・・」
「72年と74年に、アメリカで同時多発テロあったろ。その72年の方。両親共にな。」
「・・・どうして、そんな話を?」
「聞きたそうにしてたから。」
「いや、俺は・・・」
「・・ってのが半分。もう半分は単にオレが喋りたかっただけだ。」
十島育生は苦しげな笑みを浮かべた。
両親を失った悲しみは癒えない。癒えないまま薄れていく。誰かに話すことで、薄れゆく思いを繋ぎとめ、慰められたかったのかもしれない。
「・・・ああ、やめやめ。湿っぽいのァ苦手だ。もっと楽しい話しようぜ。」
そう言って十島育生は2つ目のおにぎりを手に取った。
「・・・真由良さんとは、いつから?」
「ああ・・・。」
十島育生は急いでおにぎりを噛み砕いて飲み込んだ。
「5年前にな。命を救われたんだ。」
「!?」
「首吊ろうとしてたとこ邪魔されてな。おかげで生き残っちまったぜ。」
「自殺を・・・。」
「おっと、今じゃとても死ぬ気は無えぜ。真由良がいるからな。性欲ほど生きる気力を湧かせるものは無いな。」


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この記事へのコメント

2014年10月30日 12:18
コング「名言認定」
ゴリーレッド「名言?」
コング「性欲ほど生きる気力を湧かせるものは無い」
ゴリーレッド「不承認」
コング「何でやねん?」
火剣「手作りおにぎりの効力はハンパねえ」
コング「取調室のカツ丼のような。♪かーさんがーよなべーをして、てぶくーろ編んでくれたー・・・刑事さん、私がやりました」
ゴリーレッド「あれはドラマだけの話らしい」
コング「カツ丼よりもおにぎりのほうが効くかもよ」
火剣「悲劇を忘れられない苦しみもあれば、薄れゆく悲しみもある。一生忘れられない強烈な思いを胸に抱いていたいのに、ふと気づくと、何日も思わない日があって、そんなバカなと自分を責める」
ゴリーレッド「人間の生活はそんな楽なもんではない。生きていること自体が戦いだから、ずっと思っているのも大変。忘れるのも潜在的な防衛本能かもしれない。ストレスは万病のもとだから」
コング「だから僕は健康なのか」
ゴリーレッド「胸を張るな」
コング「しかし性欲を始めとする欲望、種々の貪欲な願望は、急な坂道をも駆け上がれる爆発力を発揮させてくれる。十島育生を止めたのが真由良ではなく疲れたオジサンだったら、オジサンの首を絞めて今頃牢屋の中だ」
火剣「何ちゅう妄想力だ」
コング「真由良だから良かったのだ。これが理不尽と矛盾と不公平が何千年も続いている世の中というもんだ! カンラカンラ!」
ゴリーレッド「・・・絶対に世の中を変えねば」
2014年10月30日 22:31
>火剣さん
険悪な雰囲気を緩和する、おふくろの味。ナイスアシストですね。
10代の頃に立ち戻りかけた育生。ずっと悲しんでいると身が持たないので、明るく振舞おうとしています。

佐久間「ずっと悲しんでいた結果が自殺。育生にとって、気分が沈むことは命の危機と同じと言っても過言ではない。」
神邪「わかります、それ。育生さんは明るく振舞っていますが、大変な状況を経験してきたんですよね・・。」
山田「前向きであろうと頑張ってきたわけだな。」
八武「そう、前向きにエロスを求めてきた。自然に頑張ろうと思えるのが一番。頑張ろうと奮い立たせなければ頑張れないのは、それ自体がストレスになってしまう。」
佐久間「やはりエロスは正義だな。いくら前向きに頑張っても、心無い暴言で気分を奈落に突き落とされる世の中だ。健全な努力には限界があるのだよ。ヒーローだって、ラッキースケベ無しには生きていけない。」
山田「いろんな意味で歪んだ理論だ。」
神邪「しかし真っ直ぐな理論に救われたことなんか無いですからね。弁証法的唯物論を除いて、ですが。」
維澄「あれも真っ直ぐとは言いがたいけどね。抽象的な正論に真実は宿らないって言ってるわけだから。具体性を無視した見当違いの批判は、神邪の嫌うところでもあるでしょう。」
山田「つまりエロスが正義という抽象論も成立しない。」
佐久間「おお、具体的なエロスを模索しようと、山田も乗り気になってくれた!」
山田「待て。」
八武「コングの推測は正しい。美女との鮮烈な出会いが、育生の罅割れた心に生命力を吹き込んだ。」
佐久間「人は見た目ではないというのは、平穏が前提の常識だからな。」
神邪「育生さんが逮捕されなくて良かったです。」
山田「そのうち別件で逮捕されそうだけどな・・。」

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