亡霊たちへの鎮魂歌 82

「33年、か・・・。」
安楽椅子を揺らしながら、蛹田蛭巳は呟いた。
もうじき午前零時。
今年の4月14日が終わる。終わる。
「戦争は、終わったのか?」
玉音放送に涙した連中は、その涙が乾くと共に、戦争を忘れたかのようだった。
あの敗戦行軍の中で、何を見て、何を感じたのか、思い出せないというのか。
家族を殺された地元民が、殺した奴らを見つけて、仇を取るぞ、殺してやるぞと、土のついた顔に殺気の籠もった眼を置いていた。その中を、生きた心地なく歩いてきたのだ。
日本は戦争に負けて良かったと、呑気なことを言ってる奴らは、あの敗戦行軍を知らないのだ。
負けて良かったと言うのであれば、もっと早くに打ち切れば良かったのだ。戦争など始めからしなければいい。
負けて良かった面もあるだろうし、勝って良いというわけでもないが、まして国の勝利と個人の勝利は別だが。
しかし、良い面があるから良いとは言えない。
よく知りもせず、よく考えもせず、「負けて良かった」などと言う連中を見ていると、この国の行く末を案じずにはいられない。
「終わった? ・・・終わったことにしとるだけじゃ。終わったと思い込んどるだけじゃ。わしの肉体は朽ち老いても、心は若い頃のまま・・・。三船、赤坂、横井、梶、戸叶、白石・・・。時間が止まっているのは、超能力者だけの特権ではないわい。」
目を背ければ楽だろう。
未来だけを見ていれば楽だろう。
過去を遠ざけることが、耐えがたいほどの苦痛でないのは、気楽な人生だろう。
たとえ目を見開いていたとしても、ひとつの方向しか見る気が無いのなら、その目玉を抉り出してしまえ!
(・・・・・・)
(・・・なんて、な。)
特別な日だから興奮しているのだろう。
自分とて、同時に複数の方向を見ることなど出来はしない。
その彼を。
蛹田蛭巳を。
闇の中から見ている者がいた。
闇の中から銃口が、彼の頭に向けられていた。

「バァン!」



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この記事へのコメント

2014年11月22日 17:28
火剣「4月14日が終わるか」
ゴリーレッド「何かが起きるとは予想していたが、想像を絶する事件が起きてしまった」
火剣「平和な暮らしが一瞬にして地獄絵図に」
ゴリーレッド「目を背ければ楽だろう。過去を遠ざけることが、耐えがたい苦痛でないのは、気楽な人生だろう・・・」
火剣「特別な日だから興奮しているのだろう」
コング「まじめな話をして僕の発言をブロックしようと思っても無駄だぜい」
ゴリーレッド「戦争については軽々しく語れない。戦中派でも、疎開先で無事に過ごし、家族も皆無事で終戦を迎え、終戦直後も貧しいけどさほどひもじい思いをしなかった人もいる」
火剣「大空襲で家を焼かれ、家族は海外で戦死し、餓死寸前のどん底の生活を経験した人にとっては、戦争はまだ終わっていない」
ゴリーレッド「同じ事態に遭遇しても千差万別。だから事件や事故、災害でも軽々しくは語れない」
火剣「前向きに立ち直った人の体験談も大事だが、そこをクローズアップし過ぎて、まだ苦しんでいる人が陰に隠れるようなことは、風化に繋がる」
ゴリーレッド「まさか蛹田蛭巳までも銃弾に倒れるか」
コング「全国銃弾ウルトラクイズ」
ゴリーレッド「・・・一味は関係者を全滅させる気なのか。正体は。そして目的は?」
火剣「4月14日白石家に集まった人間は皆標的にされた」
ゴリーレッド「渚も標的だからやはり関係者か」
コング「真由良が一味に襲われるまで真由良には一糸まとわぬ姿でいてほしい。やはり身の危険が迫る時にヒロインが全裸でいるのは高度な官能的シーンd」
ゴリーレッド「エルボー!」
コング「があああ!」

2014年11月22日 23:01
>火剣さん
悪い方の意味で、真由良にとって忘れられない日となってしまった4月14日。33年前も、今も・・・。
戦後、多くの人々が戦争を語らなくなっていき、21世紀現在あちこちを見渡せば、愚にもつかない軍事論が横行している。戦後50年を迎えたときも風化を感じましたが、もうすぐ70年を迎える今の景色は、とても蛹田中佐には見せられないですね。

佐久間「戦争や災害の恐怖を肌で知ってる者は、雰囲気が違う。陽気であっても軽薄ではない。」
神邪「僕は戦争を知らない世代どっぷりですね。」
佐久間「しかし人災を知っている。」
維澄「恐怖を体験し、そこから思考を巡らせ、他を類推する洞察力。これが“経験”というものだね。」
佐久間「だから神邪は、知ってる側なのさ・・・。逆に、恐怖を知らない戦場童貞ほど、自分は他人より現実を見てると思い込む傾向にある。」
山田「現実を見てるかどうかより、それに対して何をするかの方が大事なわけだな。」
佐久間「その通り。生まれてこの方『現実を見ろ』なんて言葉、ギャグでしか使ったことはない。」
八武「そろそろ真由良の裸体について語ってもいいだろうか。」
山田「いくない。」
神邪「中佐の安否が気になります。」
八武「愛弟子にブロックされてしまった。」
維澄「やっぱり弟子になったの?」
神邪「出会ったときから師匠と思っていました。」
八武「蛹田中佐も、繭里に出会ったときに運命を感じただろうな。そして4月14日、真由良との出会いにも、ただならぬ運命を・・・ん・・・?」
山田「どうした。」
八武「不吉な想像が浮かんでしまった。」
佐久間「・・・。」

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