亡霊たちへの鎮魂歌 エピローグⅠ

あれから3ヶ月。
白い部屋で若葉緑里は、まだ目を覚まさない。
(オレが・・・守ってやらなくちゃならなかったんだ・・・!)
医者の言うには、脳死なのだと。
人工呼吸器その他で、生きてるように保っているが、死んでいるのだと。
二度と目を覚ますことは、ないのだと。
(違う! ミドリは生きている!)
しかし、二度と憎まれ口を利いてはくれないのだろう。
「おねえちゃん、いきてるの? しんでるの?」
若葉緑里の妹、若葉青乃。
その問いに海路宣夫は答えられない。

「・・・そっか。まだ目を覚まさねえか。」
待合室で、十島育生は腰に手を当てながら呟いた。
海路宣夫には、知ってる限りのことを話していた。そっとしておくのが正解かもしれないが、敢えて話す方を選んだ。
病院に来たのは、三日月宙太と、その弟3人、そして鳩中高校で見かけた女教師だった。天道朋萌と名乗った。
今後の身の安全を確保する為に来たと言った。
ただし、殊更警戒する必要は無いだろうとも。
悪夢のような一夜を演出した黒幕、蛹田蛭巳は、自室で死んでいるのが見つかったという。
おそらくは自殺だろうと、2人は推測した。それは事実とは違っていても、真実とは遠くなかった。
“ムーン・シューター”という銃を使って、自らの頭を撃ち抜いたようなものだ。銃弾が届くのに、33年かかっただけ。
(・・・何でかな。オレには、あのジジイのやったことが、理解できなくもない。)
全てを理解してるとは言えないし、同じ事をやろうとは死んでも思わないが、どうしてこんなことをしたんだという怒りは湧いてこない。
悲しいし、悔しいし、腹立たしいが、それでも理解だけは出来なくないのだ。わからなくはないのだ。
少なくとも、超能力者を迫害しようという思想よりは。
そんな思想で動いていないだけでも、まだ。
(は、結果は同じなのにな。)
しかし、それは社会的には当たり前のことかもしれない。殺人と過失致死は、死という結果は同じでも、罪の重さが違うし、十島育生の感覚でも、同じではないと思える。
(世の中そんなものだと、悟ってしまえるほど長く生きちゃいねえが・・・。)
ぴったりの言葉は、むしろ「人生これから」という方だろう。
花咲瞭は高校を卒業したら、宮白希揃と組んで仕事をするのだと言っていた。仕事の内容は聞かなかったが、吹っ切れたのではなく囚われているのが表情から察せられた。
それでいい、と思う。
下手に吹っ切れるより、囚われてしまえ。
何物にも囚われない、自由な人生など、何が面白いのか。
宇宙空間を漂うことは、何物にも縛られない自由かもしれないが、そこは暗く、寒く、退屈だ。
(裏返せば、自由気ままに生きてるような奴でも、不自由なんだ。不自由さを楽しめるのが、真の自由ってね。)
とても口には出せない気取った言葉だが、ある種の真理だと思っている。
囚われるのが愛ならば、それは何と甘美なことだろう。
(真由良・・・。)
黒月真由良は戻らなかった。宮白渚のところへも。知ってる限りの、どこへも。
三日月宙太も、天道朋萌も、知らないところへ消えた。
死んだとは、殺されたとは、とても思えない。自ら姿を消したのだ。
4月14日の夜に、若葉緑里を病院に連れてきて、その後で会ったきりだ―――
(あのとき)(真由良は)
白石楷と、彼の両親が殺され、若葉緑里も意識不明になったことを知って、彼女がショックを受けたのは当然としても、何か妙な気配を同時に感じたのだ。悟ったような、諦めたような、そして、それ以外の混沌とした何か。
(あのとき既に、何もかもわかっていたのか? 犯人も、動機も。)
犯人を推理することは難しくない。自分の迂闊さに眩暈がしたときに、まず間違いなく蛹田蛭巳だと思った。
しかし、動機の方はわかるだろうか。6年前の“戦場”を経験した十島育生でさえ、未だに全ては理解できないことを、あの時点で何もかも理解していたのは―――
(・・・馬鹿馬鹿しい。推測に推測を重ねて、オレはどんな結論を導こうってんだ。)
あまりに荒唐無稽な仮説。
黒月真由良が“ムーン・シューター”本人であるなどと。
(んなわけあるか。)
蛹田中佐と出会ったときに既に成人していたのなら、60歳を超えている。
彼女は20歳を超えているようにも見えないのに。
しかし、そう考えると符合するセリフがあることを、思い出した。
『渚ァ。あんただって、あたしから見れば子供みたいなもんだ。幾つ離れてると思ってる。』
あのときは冗談かと思ったが、あの渚という男は自分より10幾つか年上に思えた。すなわち、彼女の言葉を額面通りに受け取れば、50代後半か60代でもおかしくない。
それに何より、重大な事実・・・蛹田蛭巳の死。熟練の暗殺者“ムーン・シューター”なら―――
(いや、そんなまさか・・・)
辻褄は合っているかもしれないが、十島育生にとっては確信に値する話ではなかった。
少なくとも、海路宣夫に話せるようなものではない。今は、まだ。
それよりも別に、話すことがあった。
「・・・オレな、また音楽の道を目指すことにしたんだ。」
その言葉に海路宣夫は、ピクッと反応し、顔を向けた。
「プロでもアマでもいい。音楽をな・・・。」
「・・・そうですか。」
「ノリオは。」
十島育生は食い込むように言った。
「ギター、続けないのか? 今日は、誘いに来たんだ。どんな形でもいい、オレとセッションやらないかって・・・。」
「え、それ・・」
「ノリオのギターは、イイよ。とってもイイ。本当に才能あるぜ。」
「そんな・・・。」
そんなことは、誰にも言われたことがなかった。
だから、心が揺れなかったと言えば嘘になる。
しかし。
「・・・・・・せっかくですが、ミドリの側にいてやりたいんです。」
わがままだと思う。
もったいないと思う。
せっかくの誘いなのに。
けれど、そのセリフを言って欲しい相手は、目覚めた彼女からなのだ。
「・・・そっか。いや、そう言うとは思ってた。気持ちだけ伝えときたくてな。」
そう言って十島育生は名刺を差し出した。
「オレは諦めが悪いんだ。いつでも連絡してくれ。ミドリちゃんが起きてからでいいからさ。」



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この記事へのコメント

2014年11月24日 20:59
火剣「ムーン・シューターという銃を使って、自らの頭を撃ち抜いた。自殺か」
ゴリーレッド「銃弾が届くまでに33年かかった。文学的表現というか、詩心溢れる言葉が続く」
コング「星飛雄馬の魔球だってCMを挟むことはあっても投げてから30分以内にはストライクゾーンに届くぞ」
ゴリーレッド「何の話をしている?」
火剣「育生は理解できるのか。白石楷と緑里を奪われた時点で、もはや理由も理解も浮かばないが」
ゴリーレッド「殺人と過失致死か」
火剣「遺族から見れば飲酒運転は殺人事件だ。殺意の有無もへったくれもあるか」
コング「姉をレイプされた復讐に犯人を射殺した弟。これは殺人でも理解できる」
ゴリーレッド「自由という言葉は深い。自由のようで不自由だったり、また孤独との関係もある」
コング「♪孤独がー好きな俺さー、気にしなーいで、行っていいよー」
火剣「ルビーの指輪か」
ゴリーレッド「宇宙空間を漂いたいか?」
コング「NO!」
火剣「十島育生は真実に辿り着いたか」
ゴリーレッド「確信はしていないが」
コング「真由良はどこへ行った?」
火剣「ハードボイルド小説の殺し屋も言ってたな。当たり前の幸せを求めちゃいけない身。それを自覚しているから漂流するんだ」
ゴリーレッド「ミドリちゃんが起きてからでいいからさ。希望の言葉だ。奇跡が起きそうに思えてくる。医学は絶対ではない。医者は万能ではない」
コング「真由良はきっと戻ってくる。♪ブーメラン! ブーメラン!」
ゴリーレッド「800文字」

2014年11月24日 22:59
>火剣さん
凶行の爪跡が、生々しく残ります。生き残った者たちも、それぞれに深い傷を負い、思うところ、感じるところがあり、これからの人生を歩いていく。
育生が断片でも蛹田中佐の気持ちを理解できるのは、6年前にテロで両親の命を奪われた経験があるからだけでなく、当たり前の幸せを求められないことへの共感もあると思います。
宣夫にとっては、理解も納得も出来ないこと。しかし緑里が目覚めるという希望が残されています。パンドラの箱のように。

山田「蛹田中佐は33年前から、ずっと死にたかったのかな。」
佐久間「実際のところは、もっと複雑だ。おそらく第三部でも触れることになるが、憎悪から凶行に及んだわけではない。」
山田「だが、結果は同じだ。地獄へ行ったのは正解だろう。まあ、俺も間違っても天国へは行けそうにないが。」
八武「美人が多ければ地獄も極楽だよ。」
佐久間「真由良も地獄へ行く予定らしいからな。実際どうだかわからんが。」
維澄「私も天国には行きたくないね。地獄で革命を起こすくらいの意気込みが無ければ、この世でも革命なんておぼつかない。」
神邪「この世が地獄であるとも聞こえますね。」
維澄「ある意味そうだと思う。地獄への道は善意で敷き詰められているというのは、例えば、殺意が無ければ罪が減じられるという現実も、それに当たる。」
佐久間「その点、蛹田は明確な殺意があった。逆に殺意が無ければ、育生は怒り狂っただろうなァ。」
神邪「確かに、同じ悪意でも、嫌悪よりは殺意を向けられる方がいいですよね。マサキに殺されるなら本望ですが、マサキに嫌われるのは耐えられない。」
山田「そうなのか・・・。だが、それを聞いても俺は納得できる気がしない。」
佐久間「こんな狂気を人類の大半が理解できたら、世界はおしまいだよ。」
維澄「この世界で、真由良は果たして・・・?」

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