決闘祭!   Act 225 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅤ)

◆ ◆ ◆



闇のゲームが始まった。

地球には幾千万の隕石が降り注ぎつつある。
しかし隕石群は、天神美月、竜堂神邪、いずれか一方の死を以って消え失せる。

天神美月が死ねば、世界はデュエルモンスターズの法則から解放される。
人々は少女を犠牲にした記憶が消えないまま、理不尽と不条理の中へ放り出される。

竜堂神邪が死ねば、世界は平和になり、悪魔から永久に解放される。
人々は少年を犠牲にした記憶も消えて、超技術の恩恵に与かる幸福が待っている。

死に方は、自殺・他殺・不慮の事故・その他いずれの方法でも構わないが、あらゆる拡大解釈を無効とする。
すなわち、同姓同名の別人を殺すとか、社会的な死などの、生存する逃げ道は認められない。

殺害方法は、デュエル、リアルファイトを問わない。



◆ ◆ ◆



人々の反応は様々だった。

最初の分岐を挙げるなら、諦める者と、諦めない者。

諦めた者の末路は、あまり書きたくはない・・・。
自死する消極は、まだしも倫理的だ。
彼らは、窃盗、殺人、強姦、考えつく限り自由に振る舞った。
それは理性の抜け落ちた、獣の自由でしかなかったけれど。

諦めない者は、行動する者と、そうでない者に分かれる。
いつも通りの生活を送る者は、諦めているようで諦めていない。
その何割かは、獣の自由に蹂躙されてしまったけれど。


行動する者は、多岐に分かれる。

魔術に長けた者たちは、隕石を食い止め続けている。
あるいは、悪魔に挑んでいる。

地の利を得ている者たちは、カードとディスクを手に、翔武学園へ。
天神美月を殺す為に。天神美月の仲間を足止めする為に。

あるいは。
彼女たちを。





サン・レイティア:LP8000→0



「な・・・・・・!?」

まず疑ったのは、目の錯覚だった。


理解できない、という次元の話ではない。
自分の目で見たものを、受け入れられない。信じることができない。

有り得ない。

あまりにも強いその感情は、麻酔を打ち込まれたかのようにタイヨウの全身を麻痺させる。
それでも、かろうじて思考を紡ぐことができたのは、彼が今までに積み重ねてきた経験の賜物だった。

目の錯覚、そうでなければ、デュエルディスクの故障。
そんな、非現実的な可能性は、すぐに破棄する。
代わりに、ついさっき自らの紡いだ思考を、もう一度さらい直す。



ひたすらに守備だけを考え、延命に特化した戦い方をするならば!
たとえ“始まりの1枚”や“掌握の力”が相手だろうと、引けを取らないと確信する。

“掌握の力”は、掌握したカードを即座に手札に加える力ではないし、吉井の知識の範疇に限られる。
そして“始まりの1枚”が持つ「ゲーム維持」の性質は、初手エクゾディアなどの極端な1ターンキルを封殺する。

時間を稼いでいる間に、天神美月を殺せば、このゲームは終わる。




稼げる時間など無かった。

少年が発動した、たった1枚の魔法カードが、タイヨウのライフを根こそぎ削り取った。
過不足なく、丁度8000ポイントのダメージを以って、デュエルを終わらせた。


さらい直すまでもなかった。

少年が場に出した、たった1体のモンスターが、タイヨウの布陣を即時粉砕した。
この光景を見れば誰でも分かる。自分が根本的な部分で間違えていたことに。



◆ ◆ ◆



「なはは・・・どういうわけだい? いや、どういうつもりなんだい?」


括屋束:LP0



呆然とした顔でライフカウンターを見つめる親友を横目に、無堂幻大は、少女へ詰問する。

「どういうつもりとは、どういう意味ですか?」

少女は、相変わらず気品を湛えた笑みを浮かべている。
神の如き微笑は、デュエル前から変わらない。

「愛する人の為―――・・・」

ゾッとするような冷たい声で、少女は言った。

「・・・それは私も同じなのよ。」

「まさか、貴様!?」

括屋は遅ればせながら真相に気付いた。

天神のデュエリスト能力は、相手フィールドのモンスターを強制バウンスする。
それはビートダウン相手には無敵に近く、バーンやロック、特殊勝利などには、天神の構築力がモノを言う。
だが、デュエリスト能力によるライフロスは、《ハネワタ》などでは防げない。
ゆえに括屋の能力は、天神に対して致命的に刺さる。
《執念の剣》や《迷犬マロン》、《コカローチ・ナイト》の存在から、デッキアウトになることなく8000を削る。

この推論そのものは、間違っていない。
先に言っておくと、今の天神は魔王としての力を封じられている。
《D.D.クロウ》などで再生カードを除外することは出来ても、容易く1ターンキルなど覚束ないはず。


だから、違うのだ。

根本的に、前提が間違っている。


それはつまり、括屋が天神に優位だからといって、必ずしも―――



◆ ◆ ◆



《おジャマ・イエロー》の尻が、向かってくる。
真っ赤なパンツが、リーファ・アイディールの眼前に迫ってくる。

生まれたときから綺麗なものに囲まれ続けてきた令嬢。
ピアノ、バイオリン、ワルツ、乗馬、サッカー、合気道、デュエル・・・ありとあらゆる、上流階級の嗜みを、一身に受けて育ってきた、お嬢様の顔面に今、井戸の底で青空を見もせずに生きてきたような獣の尻が、迫る・・・。


リーファ・アイディール:LP8000→0



健康的な少女が効果を発動した、たった1枚の罠カードが、黄色い獣を神獣に変えた。
過不足なく、丁度8000ポイントのダメージを以って、デュエルを終わらせた。

これだからデュエルモンスターズは、何が起こるか分からない。



◆ ◆ ◆



それは天地が引っくり返ったような感覚だった。

“杞憂”とは、天が崩れ落ちてこないか心配した故事に拠る。
有り得ないからこそ、杞憂なのだ。


タニア・パープルウォール:LP8000→0



「ありぃ、え、ない。」

頭の中で蜜が散る。閉ざされていた記憶の蓋が開く。
そうだ、かつて自分は、“迷宮都市”でベーター・アンと暮らしていた。
大河柾を人形にしようとして、波佐間京介に邪魔されて。
ベーター・アンの製作者で仇でもある竜堂神邪を追って。
再び大河柾を人形にしようと目論んで。

(あのとき、乗り込んだ船で・・・わたしは・・・)

船が謎の爆発を遂げて、海へ投げ出されたタニアは、記憶を失い、南極へ流れ着いた。
そこでペンギンに助けられたのだが・・・今それは考えるべきことではない。

「そうか、あなたはぁ・・・」

2年前の、リンネの大会で。
迷宮都市で。
船舶都市で。

それぞれ何を見た?


「わたしの負けです。残念です。あなたを、お人形さんにしたかったです。」

タニアは泣き崩れていた。



◆ ◆ ◆



終焉のカウントダウン (魔法カード)
2000ライフポイント払う。
発動ターンより20ターン後、自分はデュエルに勝利する。




“馬鹿馬鹿しい”

最初に浮かんだのは、鼻白んだ感情。
フィールド、墓地、除外ゾーンのカードが裏側のままで、20ターンの猛攻を受け切れるものか。
《時の飛躍》でも使おうものなら、宣告者の餌食にしてやる。
そう思って・・・・・・しかしアリアンは、すぐに気を入れ直す。

(違う。あの佐野さんが、この程度なはずはないわ。)

警戒心を取り戻したのは、半分正しく、半分は間違っていた。
佐野春彦を甘く見てはならないという意味では、アリアンは正しい。
だが、時すでに遅し・・・である。

彼の言った、“能力の相性”とは、どういう意味だったのか・・・?

これは、彼の贖罪でもある。
全てがリンネの手の平だった、あのデュエル。
目の前で見城は、人質となっていた。
その状態で、天神と戦い、負けた。


アリアンは、そんな彼の心境など知る由も無い。

だが、伏せカードやセットモンスターすら出さずにターンを終えた彼に、直接攻撃を決めるべく、《アマゾネスの剣士》を召喚したとき、彼の言葉を理解した。

「―――っ!!?」

“有り得ない”

浮かんだ感情は、目の前の光景に打ち消される。
すぐさま彼女の頭脳は、状況から真相を逆算しにかかる。

アリアンの戦術は完璧ではない。
デュエルモンスターズに攻略不可能な布陣は存在しない。
彼女の能力をすり抜けるカード群の存在を、かつて竜堂眸と戦ったときに知った。

《アマゾネスの剣士》は、その対策として入れている1枚だ。
無論エクゾディアへの対策も怠らない構築を取ってある。
そもそも佐野春彦が、それらのカードを用いてくる可能性が極めて低い。
デッキを根本的に作り変えるリスクは、デュエリストの常識だ。

なので《終焉のカウントダウン》を使ってきたときも、意表を突かれたわけではない。
彼とて20歳にも満たない、自分と同い年の未成年、極限状況で血迷ったとしか見えなかった。


だから、違うのだ。


根本的なところで考え違いをしていた。
アリアンがデッキに入れるべきだったカードは、《アマゾネスの剣士》ではない。

仮に、デッキを組み替えて再度デュエルするのであれば、ほぼ負けはないと断言できる。
デュエルモンスターズに攻略不可能な布陣など存在しない。


 だ か ら こ そ 


だからこそ今このとき、アリアンは自分が、絶対に勝てないことを突きつけられた。
自分のデッキは百も承知。この状況は、詰んでいる。
必要な戦術、必要なカードをイメージできるからこそ、自分のデッキで成し得ないことも即座に理解できた。

(ああ、“クリムゾン・ドラグーン”に出遭ったばっかりに・・・・・・いいえ・・・・・・)

今更ながら、翔武生徒会の恐ろしさを思い知った。
いや、むしろ自分の迂闊さを嫌というほど気付かされた。
確かに自分でも、同じことをするだろう。
あの恐ろしい地下都市で、自分は何の為に戦っていたのか、忘れたのか。


「・・・・・・私の、負けよ。」


このまま戦い続ければ、実力以外の“何か”によって、逆転の目はあるかもしれない。
気付いていないだけで、カードの組み合わせ次第では、勝ち筋が存在するかもしれない。
そうした足掻きも、立派な決闘者の執念であると、アリアンは思う。
しかし、自分のスタンスは違う。負けが見えたら、潔くサレンダーする。

「君は諦めが早すぎる」と、タイヨウに言われたことがあるが、お互い様だ。
それに、このサレンダーは諦めなどではない。見えた希望に縋りたくなった、それだけのこと。

(佐野さんが、吉井さんに希望を託したように、私も―――)

リンネ亡き世界で、クリムゾン・ドラグーンには誰も勝てないと絶望していた1年前。
地下都市で出会った男は、もう少しのところまで彼女を追い詰めた。

“どれほど絶望的な状況だろうと諦めない”

言語化すると陳腐な綺麗事にも聞こえる、この信念は、決闘者が決闘者である存在意義だ。

ゾークに、あの悪魔に、人類が勝てるとは、今でも微塵も思わない。
それでも、「諦めるのはまだ早い」と思えるくらいには、希望の光が差し込んでいた。





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この記事へのコメント

豆戦士
2019年06月22日 00:38
はああああああああああどれひとつとしてわかんねえええええええええええええ!!!!!?????!?!?!?

えっ、やばない……? ただただやばない……?

なんぞこれ、なんぞこれ。
2019年06月22日 02:20
>豆戦士さん

これ考えたのは朝比奈さんです!
私は悪くない! だって私は悪くないんだから!

根底にあるギミックに気付かないと多分どうしようもない問題。
どうしようもないのは私の頭かもしれない。

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