決闘祭!   Act 226 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅥ)

◆ ◆ ◆



闇のゲームが始まった。

地球には幾千万の隕石が降り注ぎつつある。
しかし隕石群は、天神美月、竜堂神邪、いずれか一方の死を以って消え失せる。

天神美月が死ねば、世界はデュエルモンスターズの法則から解放される。
人々は少女を犠牲にした記憶が消えないまま、理不尽と不条理の中へ放り出される。

竜堂神邪が死ねば、世界は平和になり、悪魔から永久に解放される。
人々は少年を犠牲にした記憶も消えて、超技術の恩恵に与かる幸福が待っている。

死に方は、自殺・他殺・不慮の事故・その他いずれの方法でも構わないが、あらゆる拡大解釈を無効とする。
すなわち、同姓同名の別人を殺すとか、社会的な死などの、生存する逃げ道は認められない。

殺害方法は、デュエル、リアルファイトを問わない。



◆ ◆ ◆



人々の反応は様々だった。

最初の分岐を挙げるなら、諦める者と、諦めない者。

諦めた者の末路は、あまり書きたくはない・・・。
自死する消極は、まだしも倫理的だ。
彼らは、窃盗、殺人、強姦、考えつく限り自由に振る舞った。
それは理性の抜け落ちた、獣の自由でしかなかったけれど。

諦めない者は、行動する者と、そうでない者に分かれる。
いつも通りの生活を送る者は、諦めているようで諦めていない。
その何割かは、獣の自由に蹂躙されてしまったけれど。


行動する者は、多岐に分かれる。

魔術に長けた者たちは、隕石を食い止め続けている。
あるいは、悪魔に挑んでいる。

地の利を得ている者たちは、カードとディスクを手に、翔武学園へ。
天神美月を殺す為に。天神美月の仲間を足止めする為に。

あるいは。
彼女たちを。




「すいません、タイヨウさん。」

少年の発動したカードは、《ミスフォーチュン》だ。
《収縮》と同じく、“元々の”攻撃力を参照する魔法カード。


ミスフォーチュン (魔法カード)
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。
このターン自分のモンスターは攻撃する事ができない。



少年は、顔に手を当てて、表面の皮を剥いだ。
それは彼の皮膚ではなく、精密に作られた人工皮膚。

すなわち、デラックス超リアル変装セットである。


「タイヨウさん、あなたはモリンフェン様が好きですか?」

少年は自らのエースを、信奉し信頼する神に、うっとりとした目を向けていた。

「どうかモリンフェン様の偉大さに、正気を失わないでいただきたい。モリンフェン様の偉大さを以ってすれば、カードを押し退けることなど造作もないことなのです。カードゾーンから別のカードゾーンへ降臨させることさえも!」


“究極神”(モリンフェン) レベル2能力
任意のフェイズで、あらゆる場所からフィールドに「モリンフェン」を降臨できる。
この能力で降臨させた「モリンフェン」は、生贄・素材・コストにならず、攻撃力は
デュエル中に経過したスタンバイフェイズの回数×フィールドの「モリンフェン」の数×50ポイントアップし、
守備モンスターを攻撃したとき守備力を超えている分だけ貫通ダメージを与える。



決して場を離れぬフィールド魔法も、あくまでカード効果。
デュエリスト能力がカード効果に優先される以上、闇の世界を除去することも可能だ。
そして《ソルロード・ドラゴン》と異なり、《時械神祖ヴルガータ》それ自体は効果ダメージを遮断できない。

タイヨウのデュエリスト能力は、ひとたび場に出したシンクロモンスターを決して失わない。
ゆえに押し退けられようが何をしようが、必ずフィールドへ戻ってくる。


・・・・・・敗北への道筋と、共に。



◆ ◆ ◆



「私の・・・いえ、僕の真の姿を、お見せしましょう。はあっ!」

少女は顔に手を当てると、マスクを剥ぎ取った。
そして全身からフィールを発して、服を吹き飛ばした。

「脱衣と同時にミッドナイトブリス解除!」

そこには全裸の男が立っていた。

「ふぅ・・・大会以来ですね、無堂幻大さん、括屋束さん。脱衣しか能の無い変質者、曳砂奉佐です。はううん、死鉤の声が頭の中で再生されるぎもぢぃいいいいいいッ!!」


“真綿で絞める首”(スクラッガー) レベル5能力(所有者:曳砂奉佐)
相手のカード効果が適用されるとき、相手は1000ライフを失う。



デッキや戦術、能力には相性がある。
括屋のデッキは、《執念の剣》や《迷犬マロン》、《コカローチ・ナイト》など、墓地で効果を発揮するカードが数多く投入されている。それゆえに曳砂奉佐の能力は、致命的に刺さる。

括屋が天神に優位だからといって、必ずしも括屋は、最強のレベル5能力者ではないのだ。


「なっはっは、デラックス超リアル変装セットに、ミッドナイトブリスかね。してやられたが、しかしミッドナイトブリスで女になったところで天神美月の声は真似られまい。どうやった?」

「簡単なことです。かつて僕は、天神美月をおびき出すべく、子供に化けてトイレに連れて行ってもらいました。しかし臆病な僕は、あろうことか、彼女に排尿を導いてもらう機会を、自ら放棄したのです! 僕は激しく後悔した! 勇気が足りなかったんだ! 括屋先輩、あなたなら分かりますよね、この僕の気持ちを!」

青年は千切れた服の破片を風に乗せて、仁王立ちで身構えた。
たとえ自分が紛い物の天神だろうと、何者である前に脱衣決闘者だ。

「悪いが全く分からない。」

「はうっ!?」

「しかし、この状況は天罰かな・・・。君の妹に、殺人の罪を擦り付けたツケが、回ってきたようだ。」

「・・・・・・! そうですか・・・。僕は妹の命令とはいえ、彼女に性器をや精液を擦り付けていました・・・。」

「何の告白をしているのかね?」

結局、答えになっていない。
無堂は溜息を吐いた。



◆ ◆ ◆



リーファ・アイディールの話をしよう。

彼女は生まれたときから綺麗なものに囲まれ続けてきた。
ピアノ、バイオリン、ワルツ、乗馬、サッカー、合気道、デュエル・・・望めば何でも習わせてもらえた。
欲しいものは手に入り、周囲からは羨望と崇拝を受けて、リーファの人生は充実していた。

習い事の数々は、親がやらせたことではあったが、リーファは一度も、「やらされている」とは思ったことがない。
嫌なら、とっくに放棄している。好きだから、性に合うからやっているのだ。
周囲に頼れられるのだって、負担や重荷だとは感じない。しんどいときは、断ればいい。

自分は自由で、選ばれた存在だと思っていた。
おのれに宿った高位の能力は、その意識に拍車をかけた。

自分が歪んでいるとは思っていない。
国家や地域、民族や人種で、勝手な判断をするヒューリスティクスなど、誰もが持っている。
日本のデュエリストを見下したことは、波佐間京介に負けたことと、無関係だ。

ただ、吉井康助を馬鹿にしたことは、謝罪しようと思った。



「貴方、見城さんではありませんわね?」


その問いに、体操着の少女は肯定で返した。

「―――はい。」


「わたくしを、騙したのですわね!?」

続く問いかけにも、少女は肯定。

「はい。」

顔に手をかけて、マスクを剥ぎ取ると、打って変わって凍える顔。
クール・ビューティーを地で行くような、ロシア生まれの白皙。


「リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフ、義により助太刀しに来ました。」


“屍元共融”(トリニティー) レベル5能力(所有者:リュドミラ)
自分のフィールド・墓地・除外ゾーンを共有することが出来る。



「“回帰の力”ではなかったのですね・・・。わたくしの完敗です。《スキル・サクセサー》の使い方、お見事でした。解除と適用を繰り返すことで、使用制限をクリアするとは、褒めて差し上げますわ。」

「べ、別に、リーファさんに褒められる為に《スキル・サクセサー》を発動したわけではないんだからね!」

途端に沈黙の冬が訪れた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・スイマセン、今のは無かったことに。」

「・・・ええ。」



- - - - - -



少し時間を遡り、翔武学園に訪問者があった。

ジェラルミンのケースを片手に威風堂々と練り歩く、長身の青年の姿。
それは紛れもなく海馬瀬人その人であるように思えた。

「翔武のデュエリストども。久々だな。」
「来たわね、リーファ。」

眼下に隈を作った朝比奈が、ニヤリと笑って言った。
それは思いついた悪戯を実行しつつある子供の笑み。

「ええっ、リーファさんなんですか!?」
「どう見ても海馬社長にしか見えねえぜ!」

しかし目の前で、身長や体型を水増ししていたパーツが取り外され、そして顔を覆っていた人工皮膚が剥がされると、そこには王国の姫の如き少女が現れた。

「ごきげんよう、皆様。」
「凄い技術だな・・・。」
「アイディール家の力を以ってすれば、この程度は造作もありませんわ。」
「無駄話は後よ。変装して脱出するわ。・・・天神?」

朝比奈は、沈痛な顔で黙りこくる天神を見て、3年前を思い出した。
ひとりで抱え込んで、家に引きこもったときと、同じ顔。
何も出来なかった、無力な自分たち。

「・・・まさかあんた、この期に及んで自分が犠牲になろうだなんて思ってないでしょうね?」

表情が険しいのは、隈のせいだけではない。
どうして天神が、何度も何度も世界滅亡の渦中に置かれなければならないのだろう。
吉井も、見城も、佐野も、気が付けば拳を握りしめていた。

しかし天神は、フッと笑って言った。

「いいえ、私は死なないわ。もう二度と、死んでなんかあげない。」

これまでの世界で、天神は自らの記憶を消してきた。
それは自分を殺す行為に他ならなかった。
再びリンネの脅威が訪れたときも、自分を犠牲にしようと考えてしまった。

人間の本質は変わらない。
自己犠牲は性分だ。

だが、自分が犠牲になった程度で救われる展開など、何ひとつ無かった。
逃げ出して引き籠もった代償を受けたのは、先輩たちの方だった。
自分が死んだところで、リンネにとっては痛くも痒くもなかった。
レベルマイナスとの戦いでは、契約による遡行で、死すら無かったことにされた。

そして今、このゲームにおいても同じだ。

仲間を悲しませたくない気持ちは勿論ある。
素敵な感情を知ってしまったから、もっと生きたい気持ちもある。
個人的な感情だけでも、死んでやるものかと思える。
しかし感情だけで考えれば、仲間を死なせない為に自分が犠牲になるべきだという誘惑も片隅にある。

だが、“始まりの1枚”に近い者同士だからだろうか、天神にはカノンの思惑が、何となく分かる。
このゲームの裏側が、おぼろげにだが、透けて見える。

(いいわ、月島さん。途中までは貴女の思惑に乗ってあげる。)

笑みを浮かべながら、デラックス超リアル変装セットを着込んでいると、吉井と目が合った。

「天神さん、不謹慎なこと言っていいですか?」
「どうしたの、急に。」
「こんな状況だっていうのに、ワクワクしてるんですよ。」
「奇遇ね、私もよ。」

どんな頓狂な話かと思えば、拍子抜けした。
緊張していた肩が、柔らかくなるのを感じる。

「アタシもだぜ!」
「まあ、俺も正直・・・。」
「デュエリストとして当然よ。」

デラックス超リアル変装セットの装着を完了し、翔武の5人は普通に校門を潜って去っていった。
それを見届けるとリーファは、5人分のデラックス超リアル変装セットと、ボイスレコーダー、ボディペイント道具、衣装からコルセットなどなど、変装の七つ道具を取り出して、悪戯っぽく笑った。

「わたくしが、低俗なコントのような真似をするとは思いませんでしたわ・・・。」

しかし、その低俗さが嫌いではない。
単なる下品は嫌いでも、頭を使った俗っぽさは、思わず愉悦が零れ出す。

「いらっしゃいませ。」

前から着てみたかったメイド服で、リーファはスカートの裾を摘んで客人たちを出迎えた。
翔武の5人に変装する、影武者たち。

“無尽神法”モリン・モリン、あるいは風森無々。

ミッドナイトブリスで女になっている、曳砂奉佐。

“ツンドラの死神”リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフ。


そして、残る2人は―――


メタにメタを張る、朝比奈の作戦は功を奏するだろうか。
全てが上手くいく保証など無い。
だからこそ興奮する。






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