第45期名人戦、爆裂の決局 (囲碁)

しぶとい前線の影響で頭が朦朧としていても、
ゲームに向かうと痛みを押して冴えが勝るのは
我ながら現金なものだと思う。

最近まとまった記事こそ書いてないが
NAROUファンタジーは相変わらず
精神疾患の症状を抑えてくれているし、
囲碁や将棋の対局も同じく精神衛生的に良い。

打ち碁並べ、言わずもがな。
名人戦の第5局を並べてきたところだが、
最初から最後まで息もつかせぬ激戦だった。


序盤の焦点としてスポットを当てられた
白38の切りは、打たれて成程の一手。
小林さんが感心したのも頷ける。

鉄柱を形成すると、ああそうか、
白26の切りと28、白30の噛み取りは、
この伏線として機能していたのかと頷ける。

自分の石を安定させてから、切り口を作り、
部分で損して他の個所で優位に立つ、
なんのことはない、囲碁の基本だ。
だからこそ感動する。


そこからの展開は分かりやすい。
とりあえず45と46の交換はするとして、
黒47が省けないので、つらい。
これを省くと内側から食い破られる。

白48に対して、黒49は
噛み取りをポン抜くよりも発展性はあるが、
ここで序盤に打った白の小桂馬締まりが
突き出すように待ち構えており、
どうにも発展性が不十分に見える。

これまた布石の基本だが、
なんと鮮やかに嵌まったものだろうか。
AIの考えが分かるようになってきたと、
井山さんは述べているが、
この遥か手前からピースを嵌めていく感じは、
まさしくAIの持つ性質の一端である。


白50の目欠きから58下駄までも、
その後74までも分かりやすい。
アマチュアに分かりやすいということは、
ほとんど一本道ということでもある。

着々と中央に勢力を伸ばす白に対して、
黒は駄目に近い箇所を打たされており、
11、1、7の3子を軽く見て
(上辺白石の追撃を半ば諦めて)
右辺を渡ったのは工夫のしどころ。
若干つらい形ではあるが、本線は繋がっており、
87の継ぎまで打って
中央の白石を二方向から圧迫している。
白88の飛びは当然だろう。

黒は89と、生きを確保。
これが死ぬと、損害は現ナマに留まらず、
上辺の白石が完全に不安が無くなってしまうので、
先手を渡すのは仕方ない。


ひと段落ついて、さて白は
予てからの狙いを発動しにかかる。
90、91、92と綾を作るのは、
これまた模様の侵略として
オーソドックスな手法であり、やはり部分的には、
むしろ以前より追いやすくなっている。

黒95も、踏み込んだ石を攻める手として、
挟撃はオーソドックス・・・なのだが、
白96からカウンターが発動。
バラバラにされてはたまらないので、
黒107の抜きまで一本道。
白108によって、挟撃されていた中央の白が
ふっくら壁と連絡し、黒95の効果半減。

黒95は、中央の白を遠巻きに包囲する意味もあって、
ぴったり間合いを取れていたと思ったのだが、
白のカウンターで孤立気味になってしまった。
格好としては白地に深く踏み込んでおり、
先手も取っているのだが、ここで地合いを見ると
黒の確定地は意外と少なく、30目ほどしかない。


となれば左上に向かうのは必定。
白に10目強の地を与え、左辺を主張しつつ
捨て石の綾を作ってから左下も攻撃と、
ここから先は、ひと段落というものが無く、
最後までノンストップ。

お互いに相手の意図に素直に従わず、
切り刻んだり、手を抜いて他へ回ったりと、
忙しい展開が続く。

深く踏み込んだ格好になった
黒95付近の黒の一団と、
白124から展開している中央左の白との、
もつれた攻め合いが最終局面。

黒147に対して、白148で受けるのは
大胆というか、冷静というか。
部分的には手を抜いた格好なので、
149と襲い掛かられるのは当然。
ここでも白は150と冷静に利かしてから、
152以降、黒の断点を咎めながら捌き切り、
これにて第45期名人戦は決着。


芝野さんの突撃に対して井山さんは
はいはいと受けて逃げ勝つのではなく、
ギリギリ崖の上を往くように潰して勝ち切った。

この際どさは、以前からあった井山さんらしい
受けて立っての勝ち方そのもの。
“過去を捨てた”というのは、
七冠独占の栄光を“過去”として気持ち新たに
AIの研究をしたということであって、
過去のスタイルは、より磨きをかけて
現在のスタイルに繋がっている。

2局目を芝野さんのミスで拾ったのもあり、
たとえ2局目を負けていても
名人位を奪ったに違いないと、誰もが思う内容を、
こうして実現できるあたりが最強たる所以だ。


そして同時に、AI研究の成果として、
部分的にはアマチュアに分かりやすくなったのは
興味深い現象だろう。

もちろん“部分的に”であって、
実際それはアマチュアとは掛け離れているのだが、
例えば今回、序盤の焦点となった“鉄柱”は、
最近よく見かけるようになった。

あくまで印象論だが、しばらく“鉄柱”は
プロの碁での使用率が低くなっていた。
AIの台頭で、これまで“車の後押し”だったような
幾つかの定石が改良されているそうだが、
それと同時期に鉄柱の使用率も増えた気がする。

AIは決して変な手を打っているわけではない。
むしろ我々アマチュアが積み残したジャンクから
天地を揺るがす神の如きゴーレムを
作り出そうとしていると思うと、ロマン溢れる話だ。








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