亡霊たちへの鎮魂歌 69

黒月真由良は、白石楷の母親を見た。
(問題は、この人だが・・・。)
超能力の存在について、エス研の4人、宮白希揃、十島育生、蛹田蛭巳と護衛は、信用できる。
絶対とまでは言わなくても、安定して信頼できる。
だが、白石楷の母親まではどうか? 今日はじめて会った彼女を、黒月真由良は内面までは知らない。
(・・・いや、よそう。疑心暗鬼を生ず、案ずるより産むが易し。これも“現実”だ、なるようになれ。)
たとえ最悪の場合でも、およそ自分にとって“最悪”にはなりえないのだ。
今の世の中を概ね平和だと感じる、そんな自分が思い描く“最悪”など、たかが知れている。
「そおだ、セッションやるんだったな。」
十島育生がポンと手を叩く。
「YES!」
海路宣夫がギターをかき鳴らす。
そこから音楽の流れになる。
蛹田蛭巳や宮白希揃は、何が始まるのかと胸躍らせている。

さあ、歌おう。声を音に合わせて。
奏でよう。音を歌声に合わせて。
そのとき、時間も距離も、世代も性別も、その場から感じられなくなった。
ひとつの領域が解放された。

   故郷は遥か遠く 遠く離れた異国の地で
   異なる陽光に照らされ 魔物たちと戦う
   大砲は轟いて 銃声はけたたましく
   号令のラッパだけが勇ましい

歌い手の十島育生は、少年の頃に戻っていた。
女を知らない、自分が男であることも知らない、12歳の夏。

   なぜ気付かない? 既に人は土の下
   なぜ気付かない? 魔物もまた人であること
   誰か 誰か 永遠の安息を与えてください
   冥府魔道に呑み込まれた彼らの魂を救って下さい

ギターを鳴らす海路宣夫は、音楽を好きだということを思い出していた。
その横顔を見て、若葉緑里はドキッとしていた。別人のように思えた。

   全ての肉あるもの 全ての血あるもの
   人も魔物も赤い血を流し
   ただ地獄だけが勝利する
   死者は眠ることさえ許されず
   苦しみと 怒りと 嘆きが聞こえる
   この愚かなる戦いが終わるまで!



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