「サトリン」 番外編 折れた十字架 10

いつか、こんな日が来ると覚悟していた。
あるいは待ち望んでいたのかもしれない。
所詮オレは、楽になりたいとしか思っていなかったのか。

「加害者が立派な人物になったら、被害者は悔しくて仕方ないでしょうね。」

いつかどこかで聞いた覚えのあるセリフを、九古鈍郎の口から再び聞くことになった。
オレは咽が苦しくて声が出なかったが、駄目だ、勘違いするな。苦しいのは被害者の方だ。
この何倍も何倍も、被害者は苦しんでいるんだ。
「知りたいことは2つです。千里さんに訊けば教えてくれると思いますが、私は永須さんの口から聞きたい。」
冷静な口調と態度が、逆に恐い。
それだけ深く深く怒っているのだ。
「まず、どうして当時、すぐに謝罪なり償いをしに来なかったのですか?」
「・・・っ、・・・・・・恐かった、んだ。オレ、は・・・七美たちに、何もかもやってもらって・・・楽してた。」
「そうですか。」
責められなかった。だが、それは失望されたことを意味していた。
九古さんの声は冷たく沈んでいて、オレは窒息しそうな心地になっていた。
「もうひとつは、舜平が被害者の息子だということは、前から知っていたんですか?」
「・・・いや、この会議で知った。」
「そうですか。」
また失望の声が飛んできた。
被害者の素性すら知ろうとしなかった、そんな臆病者だと突きつけられている。
「・・・九古さんっ!」
「はい。」
「お・・・オレに、失望しまし・・・・」
「・・・・・・。」
九古さんは、視線を足元に落として言った。
「今更なんですよね。」




つづく

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