傀儡師は夜に眠らない 2

「おい、立てるか?」
わたくしは彼に手を差し出しましたが、彼は余計なお世話だと言わんばかりに、自分で立ち上がって埃を払いました。
少々ムッとしましたが、それ以上に、興味が湧いてきました。わたくしは彼の横に座って、酒をもう一杯注文しました。
「そんな上等なナリで、こんなとこ来て、今みたいな目に遭うって予想できなかったのか?」
正直に言うと、わたくしも3人の方を応援していました。ここは貧しい労働者が端金で飲む場所であって、彼のような値の張る恰好をした人間が来るべき場所ではないのです。豊かさを見せびらかしに来たと言われても文句は言えないでしょう。
「・・・アナタが連中に指図したんで?」
「まさか!」
思ってもみない疑いをかけられて、わたくしは面食らいました。普通なら侮辱されたと怒るところですが、逆に興味が深まりました。
最初に視界に入ったときから、彼に一定の興味は持っていました。そうでなければ、あの3人の前にわたくしが率先してぶん殴っていたと思います。そうせずに逆にあの3人を止める側に立ったのは、彼の瞳に非常に興味深い輝きを感じたからです。
これが貴族階級によくある、庶民を見下す薄汚い輝きであれば、前述した通り彼に暴力を振るっていたに違いありません。
「すいません、助けてくれた人に対して、酷い言い草でした。」
彼は申し訳なさそうな、本当に申し訳なさそうな顔で謝りました。
無闇に人を疑うかと思えば、素直に謝りもする。それまで会ったことのない人間でした。
「どっから来た?」
「東から・・・。」
その物言いには、単に東方から来たというだけではないニュアンスが含まれていました。
「根無し草なんか。」
「物心ついたときからね。おそらく生まれつき。」
「俺もだ。」
わたくしは姿勢を正して、ビールを一杯追加注文しました。
「飲めよ、奢りだ。」
先程の騒ぎで、彼の酒は床にこぼれていました。わたくしはジョッキを彼の前に置き、笑みを浮かべました。



つづく

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