テーマ:エスパー奇譚 中編

亡霊たちへの鎮魂歌 57

その宮白希揃を先程から、十島育生が直視していた。 「・・・何です?」 2人の目が合った。 「いや・・・どっかで見たことのある顔だと思って。どこだったっけな?」 十島育生は首をかしげた。 「・・・十島さんとは初対面だと思いますが?」 「そうだったっけな・・・。」 もちろん初対面であり、街ですれ違ったことすらない。 十島育生…
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亡霊たちへの鎮魂歌 56

その少し前、7時過ぎに花咲瞭は白石家を訪れた。 「早いなー。集合7時半だぜ。」 「あれ、まだ7時過ぎ? ちょっと早かったか。」 「丁度いい。今おにぎり作ってんだけどさ、リョウも手伝ってくれ。」 2人でせっせとおにぎりを作っていると、白石楷の両親も起き出してきた。父親は新聞を取りに行き、母親は味噌汁を作り始めた。 7時20分ごろ…
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亡霊たちへの鎮魂歌 55

「うっわ、まだ6時半じゃねーか。信じらんねー、こんな早くに起こしやがって。てっきり寝坊したかと思って焦っただろ・・・!」 「“もう”6時半よ。登校前に、いったん集まろうって話。」 「そういや昨日そんなことを聞いた記憶が・・・ふああ、しかし眠い。何か目え醒めることやってくれよ。」 「じゃあ往復ビンタを・・」 黒月真由良は右手を構え…
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亡霊たちへの鎮魂歌 54

4月14日がやって来た。 運命の日と言っても大袈裟ではないだろう。 この日は黒月真由良の人生において、二度と忘れられない日となった。それはつまり、記憶に強く残るという意味においては、宮白渚にプロポーズされたときよりも。身も心も熔かされたときよりも・・・。 朝の6時。ぼやけた視界が整えられていく。 黒月真由良は裸身を起こして、…
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亡霊たちへの鎮魂歌 53

「何が気になるんだ?」 白石楷は左を向いた。夕陽が反射して、顔が赤く輝く。 「黒月さん、もしかして前から“ムーン・シューター”について知ってたんじゃないかと思って。」 「ほう。」 「普通あれだけの資料を数日で把握するだけでも難しいのに、新しく説まで打ち立てるなんて、以前から知識があったとしか思えないよ。」 「ははあ、確かにな。…
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亡霊たちへの鎮魂歌 52

「あれで、なし崩し的に踏ん切りがついたよな。感謝してるぜ、リョウ。」 白石楷は、ケラケラ笑いながら言った。 「ひどいなあ。そりゃあ倒れ込んだのは僕だけど・・。」 「いやいや、本当に感謝してるんだって。中学まで帰宅部だったし友達いなかったし、あのまま踏ん切りつかなかったら、どうでもいいような高校生活送ってたかもしれないと思うとなー。…
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亡霊たちへの鎮魂歌 51

同じ頃、白石楷と花咲瞭の2人も、並んで帰り道を歩いていた。 「いやー、エス研も活気づいてきたもんだ。」 「そうだね。カイと僕とで細々とやってきた甲斐があったよ。」 「・・・でもよ、何か、あの頃が懐かしくなってくる気がしないか? 別に、あの頃に戻りたいとかいうわけじゃないけど。」 「・・・!」 花咲瞭は、自分の心が見透かされたよ…
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亡霊たちへの鎮魂歌 50

若葉緑里と海路宣夫は、背中を夕陽に照らされながら、帰り道を歩いていた。 2人の家は隣同士なので、小学校の頃から一緒に帰ることが多い。 「あー、セッション楽しみだぜ!」 海路宣夫は長髪をバッサバッサ揺らして興奮していた。 「カイロ、十島さんの住所聞き忘れたでしょ。黒月に聞いておきなさいよ。」 「は?」 「は、じゃないわよ。14…
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亡霊たちへの鎮魂歌 49

帰り道の同じ黒月真由良と十島育生は、揃って夕陽に照らされながら歩いていた。 「いい部活じゃねえか。」 「羨ましい?」 「ちょっとな。」 夕陽が眩しいせいだろうか、涙もろい気分になる。 それは黒月真由良も同じだった。 「あたしも、ちょっと羨ましいかな。自分を偽らずに生きていける彼らが。」 輪の外にあって疎外感を抱くのと、輪の…
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亡霊たちへの鎮魂歌 48

「この資料によれば、蛹田中佐は1945年にムーン・シューターと連絡が取れなくなったというのが通説なんですが、あたしは少し違うと思うんです。おそらく50年代前半まではムーン・シューターと連絡が取れていたか、少なくとも動向をある程度は把握していたのではないかと考えます。というのは、45~50年代前半までの暗殺は、何年も後になってからムーン・…
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亡霊たちへの鎮魂歌 47

黒月真由良は十島育生を軽く睨むと、手に持っていた“ムーン・シューター”の資料を机の上に並べた。 「本来の話に戻りましょうや、皆様方。」 怒ってはいないが、これ以上は怒るよという口調だ。心なしか顔が赤い。 彼女が並べた資料は”ムーン・シューター”に関するもののうち、1938~1945年のものだった。 「・・・ムーン・シューターが蛹…
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亡霊たちへの鎮魂歌 46

「ところでエス研って普段は何してんの。あ、さっき何とか言ってたな。ムーン・シューターとか。」 「よくぞ訊いてくれました、十島先生。」 待ってましたとばかりに、白石楷が目を輝かせて資料を渡す。 「こりゃ凄い。道楽の域を超えてるぜ。まったく今日びの高校生は・・・。」 「いやあ、実は卒業した先輩が殆ど。」 「大した先輩だ。どっから湧…
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亡霊たちへの鎮魂歌 45

「待て待て焦るな。今ここでやろうってわけじゃない。」 十島育生は手を振って言った。 「何でも14日に白石くんの家で集まるそうじゃないか。そこで余興としてやろうぜ。」 「なるほど。曲目はもちろん、“カッセルの鎮魂歌”っスよね?」 「それと“クリムゾンの葬送曲”もやろうか・・・ん、カッセルのって、題名は書き忘れてたような?」 「へ…
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亡霊たちへの鎮魂歌 44

そこへ部長の白石楷と副部長の花咲瞭が戻ってきた。 それぞれジュースとスナック菓子を持っている。 「また痴話ゲンカか?」 白石楷が苦笑しながら言う。 「だーかーらー、私とカイロはそんな関係じゃありませんっ。」 「ふん、オレだって誰がこんな昆虫女と・・・。」 「誰が昆虫ですって!?」 「葉っぱばっかり食ってるからだ。葉っぱちゃ…
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亡霊たちへの鎮魂歌 43

「いやあ、素晴らしかったですね。」 「ははは、どうも。」 十島育生は職員室で、先程の男性講師から賛辞を受けていた。 6時限目の授業を終えて外に出ると、隣の教室からも人が集まっていたのだ。放課後になったら、こっそり逃げるつもりでいたが、こうも目立っては不可能だ。 (まあいいや。いざとなったら重力使って強引に逃げりゃいい。) 「す…
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亡霊たちへの鎮魂歌 42

   故郷は遥か遠く 遠く離れた異国の地で    異なる陽光に照らされ 魔物たちと戦う    大砲は轟いて 銃声はけたたましく    号令のラッパだけが勇ましい    なぜ気付かない? 既に人は土の下    なぜ気付かない? 魔物もまた人であること 流石に8年もアメリカで暮らしていただけあって、十島育生の英語の発音は…
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亡霊たちへの鎮魂歌 41

5時限後の休み時間、黒月真由良は1年B組の教室で、次の授業の準備をしていた。 「んーと、次は英語、英語。」 (そう言えば、英会話の講師が来るという話だったわね。) リーディングの教科書ではなく、ガリ版刷りの英会話テキストを取り出して、準備を整えた。 しかし6時限目が始まるなり、彼女は度肝を抜かれることになる。 (育生!?) …
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亡霊たちへの鎮魂歌 40

「あ、いたいた。」 今度は若い男性が現れた。 「やっぱり迷ってましたか。初めて来た人は大概そうなんですよ。」 「はあ。」 十島育生は逃げ出すことも出来ず、相手に合わせて適当に物を言おうと決めた。 「職員室こっちです。」 「あ、どうも。」 見た目は自分より年下だが、雰囲気からして年上のように思えた。 十島育生は、なるように…
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亡霊たちへの鎮魂歌 39

昼休みが終わって午後の授業が始まり、十島育生は1人で校内を歩いていた。 (アメリカのハイスクールとは、まるっきり別もんだな。雰囲気が静かだ・・・。) 彼の通っていた高校では、授業中だってそれなりに賑やかだった。サボってる生徒も珍しくなかったし、途中でトイレに行くと言って戻ってこない生徒もいた。 そういった光景を目にして3年間を過ご…
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亡霊たちへの鎮魂歌 38

その頃、黒月真由良は学校で昼休みに入っていた。 食堂で手早く昼食を済ませた後、彼女は校庭の隅で写生をすることにした。 この高校に入ってから1冊目のクロッキー帳。その最初のページに、球技をする高校生の姿が描かれていく。 「ふああ、みんな若いなー。あのパワーはどこから来るんだろう。」 「ババくせえこと言うなよ。」 後ろから十島育生…
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亡霊たちへの鎮魂歌 37

「くああ・・・。」 宮白渚が目を覚ましたのは昼になってからだった。乱れた布団や散乱した衣服が、昨日の情事を物語っていた。 「俺も若いな・・・。」 時計を見ると12時を少し過ぎたところだった。 (真由良は学校か・・・。) 一緒に“夜明けのコーヒー”を飲みたかったが、昼間で寝ていた自分が悪いのだ。 服を残していったということは、…
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亡霊たちへの鎮魂歌 36

朝日が白く輝く頃、宮白渚の家に来訪者があった。 彼をそのまま若くしたような要望の息子、宮白希揃だ。 「鍵かけてないのか。無用心だな・・・。まあ、こんな田舎に強盗も出ないか。」 半年ぶりに来た父の家は、見た目は以前と変わりなかったが、どこか雰囲気が違うような気がした。 「・・・・・・?」 違和感の正体を探ろうと部屋の中を見回すと…
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亡霊たちへの鎮魂歌 35

まだ薄暗い夜明け前に、黒月真由良は目を覚ました。 雲間から零れる陽の光が、カーテン越しに届いている。 「んん・・・。」 彼女の裸身を包むシーツには、2人の汗が染み込んでいた。 夕べの情事の痕跡が体中に残っていて、再び顔が熱くなる。 「・・・っ。」 横で眠る宮白渚の顔は優しげで、幸せを手に入れた男の顔だった。 その唇に軽くキ…
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亡霊たちへの鎮魂歌 34

黒月真由良の逆立った髪は下方へたなびき、色も黒く戻った。 それと共に、魔物のように大きく見開いていた眼も普通の大きさになった。 渦巻く亡霊たちが薄くなって消えていく中、彼女は兎耳帽子を被り、前へ数歩、進んだ。 (ラプソディア!) (ラプソディアか!?) カッセルの鎮魂歌を聴くのは、実に13年ぶりだった。アメリカで仕事をしていた…
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亡霊たちへの鎮魂歌 33

(わたしが憎いか亡霊ども!?) (わたしを恨むか亡霊ども!?) 黒でなくて青。黒月真由良の髪の色は、瞳に薄らと浮かぶ色と同じく、青白く変貌している。 逆立った髪はユラユラと、炎のように揺らめいている。 大きく見開いた双眼は、いっそう青さを増している。 白い歯は輝きを同じくしたまま鋭く尖っている。 (久しぶりに会うのに相変わら…
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亡霊たちへの鎮魂歌 32

(ここはどこだ) (わたしはどこにいる) これが夢であることを認識するのに、少し時間を要した。 満月の光の下で、黒月真由良は墓石に囲まれていた。 耳を澄ませば怨嗟の声が響いてくる。 苦痛の声が、嘆きの声が、耳から入って頭の芯まで揺らしてくる。 『痛いよう、苦しいよう・・・』 『助けて・・・』 『・・・熱いよう、熱…
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亡霊たちへの鎮魂歌 31

いつ以来だろう。 特定の人間に抱かれたいと思ったのは。 いつ以来だろう。 心から人を愛したのは。 いつ以来だろう。 こんなに深く人と結びついたのは。 快楽を得るのは生殖器ではなく脳髄だ。肉欲を満たす為だけではなく、心から望んで抱かれるとき、快感は何倍にも何十倍にも膨れ上がる。突かれるたびに頭の中で火花が飛んだ。 体だけ…
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亡霊たちへの鎮魂歌 30

「昨日の真由良は可愛かったな。」 真正面に来た宮白渚が囁いた。 「なっ・・・!?」 自分が挑発していたはずなのに、思いもよらぬところから切り返された。 思い出せば昨日も、彼は手の込んだ料理を作っていた。食器を流しに持っていこうとしたときに、背後から抱きつかれて唇を奪われた。 そのときのことを思い返すと、どうしようもなく体が熱く…
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亡霊たちへの鎮魂歌 29

宮白渚の家は、都会から少し離れた場所にある。のどかな雰囲気の一軒家だ。 「何か食べる?」 「そうね。」 鞄を置いて、上着を脱いで、黒月真由良は取り皿と猪口を用意した。 そこへ宮白渚が海鮮の醤油漬けと日本酒を持ってきた。 「何これ、さらっとした口当たりなのに味は濃い。深みのある不思議な旨さだわ。」 「ふふふ・・・3種類の出汁と…
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亡霊たちへの鎮魂歌 28

「・・・・・・。」 「・・・・・・。」 しばらく2人は睨み合った。 (渚も育生も仕方ないな・・・。) 元凶の黒月真由良は静かに事の成り行きを見守っていた。 すると意外にも、十島育生の方から目を逸らした。 「ハァ・・・やめだやめだ。真由良がどっち選んでるかなんて、最初からわかってんだ。」 「育生。」 「行けよ真由良。幸せに…
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2019年11月
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